AIより、地政学より、もっと静かで深刻な変化
最近、サプライチェーンの話になると、みんなAIだのブロックチェーンだの、地政学リスクだのって言うけど。正直、もっと根っこで、静かに、でも確実にすべてを覆そうとしている変化があるんだよね。…そう、生物学的な問題。要するに「人口」の話。
世界中の工場の足元で、時限爆弾のタイマーがカチカチ鳴ってる感じ。でも、意外とこの視点で深く語られることって少ない。技術の話は派手で分かりやすいからね。でも、本当にヤバいのは、何十年も当たり前だったサプライチェーンの前提が、人の「年齢構成」によって崩れ始めてるってこと。
ちょっとググってみると、大手コンサルが出してるレポートとか、経済メディアの記事はたくさんある。でも、だいたい「日本では高齢化が問題です」「アジアでは若者が増えてます」って、別々の話として扱ってる。あと、自動化を「インダストリー4.0」みたいな、なんかカッコいいテクノロジーの進化として語りがち。…でも、僕が見てる現場の感覚とは、ちょっと違うんだよな。
今日の話は、そういう表層的な話じゃなくて、もっとドロっとした部分。なんでドイツの工場が必死に自動化してるのか。それは「生き残るため」であって、コスト削減が第一目的じゃない。なんでAppleがインドに動くのか。それは単なるチャイナ・プラスワンじゃなくて、もっと根本的な「人の奪い合い」が始まってるから。この辺の繋がりを、ちゃんと見ていかないと、10年後の地図を完全に見誤ると思う。
沈みゆく巨人たち:伝統的製造大国の「高齢化」という現実
まず、今までの「世界の工場」がどうなってるか。数字で見ると、もう笑えないレベル。
日本は言うまでもない。人口の3割近くが65歳以上。工場の平均年齢は50歳を超えてる。ドイツは2030年までに労働者が500万人減るって予測もある。韓国は世界最速で高齢化が進んでて、2050年には生産年齢人口が35%も減るらしい。
一番衝撃的なのは、やっぱり中国かな。2030年までに3500万人、2050年には2億人の働き手が消える。…2億人って、日本の人口より多いじゃん。一人っ子政策のツケが、今になって巨大な請求書として回ってきてる感じ。
これって、ただの人手不足じゃない。「スキルの空白地帯」が生まれるってこと。ドイツの精密機械メーカーなんて、「熟練の金型職人が一人辞めるたびに、数十年分の知識が失われる」って嘆いてる。そういう暗黙知って、AIじゃすぐには代替できないんだよね。本当に。
じゃあどうするの? 生き残りをかけた「自動化」
もう、答えは一つしかない。自動化。でも、意味合いが昔と全然違う。
昔の自動化って、要は人件費を削るための「コスト削減」だった。でも今は、そもそも代わりになる「人がいない」から、自動化せざるを得ない。「人員削減のための自動化」じゃなくて、「事業継続のための自動化」。この違いは、めちゃくちゃ大きい。
ある日本の部品メーカーの話。退職で人がどんどん減るのに、募集しても全然集まらない。賃金2割上げてもダメ。で、結局15億円くらい突っ込んで工場を大規模に自動化したら、4割少ない人数で生産量を維持できた。これ、ROI(投資対効果)の計算式が昔なら「うーん、微妙」だったのが、今や「これしかない」に変わった典型例。
面白いのは、単に人を機械に置き換えるだけじゃない動き。トヨタみたいに、高齢の作業者が働き続けられるように、アシストスーツとか、力のいらない運搬装置とかを導入してる。「人に優しい自動化」って感じかな。熟練者の経験を、少しでも長く現場に留めておくための、必死の工夫なんだよね。
重点一句話
結論を言うと、世界の製造業の勢力図は、今、人口ピラミッドの形に沿って塗り替えられつつある。
台頭する新星たち:若者がいる国へ
一方で、伝統的な製造大国が縮んでいくのを横目に、新しい拠点が次々と生まれてる。共通点は、シンプル。「若い働き手がたくさんいる」こと。
この流れで、どこが注目されてるか。いくつかの候補地を比較してみると、それぞれの国の「味」が見えてきて面白い。
| 国・地域 | 強み(なんで注目されてる?) | 弱み(でも、ここが心配…) |
|---|---|---|
| インド | 人口がもう圧倒的。若者が毎年1200万人も労働市場に入ってくるって…スケールが違う。2055年まで人口ボーナスが続くとか。マジか。 | インフラがまだ追いついてない。港とか道路とか。あと、スキル教育が課題。人がいても「使える人」にするまでが大変。 |
| ベトナム | 中国から地理的に近いし、賃金もまだ安い。電子機器の輸出がすごい伸びてる。サムスンとかインテルとか、大手が本気で投資してる感じ。 | もう結構、人件費が上がってきた。インフラも、特に港湾はパンク気味って聞く。みんなが考えることは同じってことか。 |
| メキシコ | アメリカの隣っていう立地が最強。USMCA(新しいNAFTA)のおかげで関税メリットも。ニアショアリングの筆頭候補だよね。 | 国境沿いの工業地帯は、もう人手不足になりつつある。あと、電力とかエネルギー供給が今後の成長に追いつけるか、ちょっと心配。 |
| アフリカ諸国 (エチオピア, モロッコなど) |
究極のフロンティア。2050年には世界の労働者の4人に1人がアフリカの人になるらしい。ポテンシャルは計り知れない。 | まだ国ごとに法律も違うし、政治も不安定なところが多い。インフラもこれから。リスクを取れるプレイヤー向けかな、正直。 |
こうして見ると、一概に「次はここだ!」って言えるほど単純じゃない。でも、大きな流れとして、製造業の重心が「若くて人口の多い国」に移ってるのは間違いない。これは、地政学的なリスク回避とか、コスト削減とか、そういう次元を超えた、もっと根源的な地殻変動なんだと思う。
反例と誤解釐清
ここでよくある誤解をいくつか解いておきたい。
一つ目は、「自動化すれば全部解決する」という考え。これは間違い。特に、倉庫でのピッキングとか、ラストワンマイル配送とか、標準化しにくい作業はまだまだ人手に頼ってる。日本の物流業界で、2024年問題とか言われてるけど、ドライバーの高齢化はもっと深刻。国連のデータもそうだけど、日本の国土交通省の資料を見ると、トラックドライバー不足は本当に危機的なレベル。こういう「自動化しにくい領域」が、高齢化社会のボトルネックになる。
二つ目は、「人が余ってるんだから、製造業に行けばいい」という単純な話。イタリアなんか、若者の失業率が高いのに、工場の技術職は空席だらけ。なんでかって、必要なスキルと、若者がやりたい仕事のミスマッチが起きてるから。「製造業=古い」っていうイメージも根強いしね。これは日本も同じか…。
最後は、「知識はマニュアル化すればいい」という誤解。さっきも触れたけど、ベテランが持ってる「なんか機械の音がいつもと違う」みたいな感覚、いわゆる「暗黙知」は、そう簡単にはデジタル化できない。シーメンスとかが必死にこれをデータ化しようとしてるけど、まだまだ道は遠い。この知識の継承に失敗した企業は、静かに競争力を失っていく。
で、僕たちはどう考えればいい?
この大きなうねりの中で、サプライチェーンに関わる人間として、何を考えなきゃいけないか。
思うに、一番大事なのは「サプライヤーの人口動態を把握する」ことじゃないかな。自社の工場だけじゃなくて、重要な部品を供給してくれてる取引先が、どの国にあって、そこの労働力は10年後どうなってるのか。サプライヤーの「健康診断」項目に、「人口動態リスク」を入れるべき。60%以上の部品を、これから労働人口が激減する地域のサプライヤー1社に頼ってるとか、そういう状況に気づいてない企業が、まだ多すぎる気がする。
あと、これからの立地戦略は、「今安いから」じゃなくて、「10年後、20年後も『人』を確保できるか」っていう視点が絶対に必要になる。場合によっては、ドイツみたいに人件費は高いけど自動化技術とノウハウが蓄積してる国で精密部品を作って、ベトナムやメキシコみたいな若い国で組み立てる、みたいな「ハイブリッド型」のネットワークを、もっと意識的に設計していく必要があるんだろうな。
…なんてことを、最近ずっと考えてる。技術のトレンドを追うのも大事だけど、こういう足元の、でも巨大な変化にこそ、次の10年の勝機と危機が隠れてる。そう思うんだよね。
あなたの会社は、どうですか?
少し考えてみてください。あなたの仕事で関わっている一番重要な製品やサービス。そのサプライチェーンの中で、「この人がいなくなったら本当に困る」というベテランの職人さんや技術者さん、何人くらい顔が浮かびますか? その人たちの知識や技術って、ちゃんと次の世代に引き継がれていますか?
もしよかったら、コメントであなたの業界の状況を教えてください。
